今年も地震や台風、集中豪雨など、さまざまな自然災害が日本列島を襲いました。年末が近づいてくると、被災した知人に年賀状を出してもよいものかどうか、出すとしてもいつも通りでいいのか、頭を悩ませる人も多いのではないでしょうか。
もし自分が避難生活を余儀なくされ、復興活動に追われている状況だったら「おめでとう」のメッセージに複雑な感情を抱くかもしれません。
かといって、年賀状を出すのを避けるべきなのかというと、必ずしもそうとは限らないでしょう。こんなときだからこそ、心のこもった年賀状を受け取ることで、励まされる人もいるはずです。どこからも年賀状が届かなかったら、むしろ寂しい思いをするかもしれません。
いずれにせよ、相手を思いやる心を伝えることが大切です。ここでは、被災地への年賀状の書き方や注意点を、例文を交えてご紹介します。
被災地へ年賀状を送ることの是非を問う前に、本来の年賀状を送る意味合いについて考えてみましょう。
年賀状の歴史は古く、平安時代にさかのぼります。日本ではすでに奈良時代から、年の初めにお世話になった方や親戚の家を回り、新年の挨拶を行う「年始回り」の行事があったとされています。平安時代に入ると、貴族や公家の間でこの風習が広まり、直接挨拶ができない遠方に住む人に対しては「年賀の書状」が送られるようになりました。それを裏付ける史料として、平安時代に藤原明衡が編纂した手紙文例集『雲州消息』の中に、年始の挨拶文例が数編見つかっています。
明治維新後の1871年に郵便制度が発足し、はがきが誕生すると、上流階級や知識人を中心に年賀状が流行しました。さらに明治20年になると一般市民の間で年賀状を出すことが国民行事の1つとして定着します。
1937年にいわゆる日中戦争が始まると、世の中が年賀状どころではなくなり、年賀状のやり取りが途絶えました。戦後の1948年にようやく再開されたのち、京都在住の林正治氏が「年賀状の復活によって戦争で途絶えた知人の消息がわかり、ひしがれた気分から立ち直るきっかけになれば」と『お年玉くじ付き年賀はがき』を考案。昭和24年12月の発売と同時に爆発的なヒットを果たし、1955年には戦前のピーク時のレベルを突破して、現在に至ります。
前述したとおり、そもそも年賀状とはお世話になった方々への「年始回り」の代わりです。現代では、年始に会える相手に対しても年賀状を出すことがありますし、逆に、メールやSNSで新年の挨拶をすませる人もいます。
しかし、簡単に挨拶ができる時代だからこそ、直筆の年賀状をもらうと嬉しいものです。また、普段お世話になっている人や親しい人へ「年賀状を書く」という行為をきっかけに、相手との1年間のエピソードを振り返ることができます。身近な相手であればあるほど、素直に「ありがとう」と言うのは照れくさいものです。年賀状は、あらためて日頃の感謝の気持ちを伝えるよい機会ともなるでしょう。
被災者に年賀状を送っていいかどうかは意見が分かれるところです。年賀状をもらえたほうが励みや慰めになるという人もいれば、かえって落ち込んでしまうという人もいるでしょう。親しい間柄であれば、前もって送っていいかどうか尋ねてみてもいいかもしれません。
しかし、かつて大戦後の復興の中、戦災でバラバラになった人々が安否確認をするために年賀状を用いた歴史を振り返ると、何らかの形で挨拶を続けたいものです。また、戦時下で年賀状が中止されたことを思えば、年賀状のやり取りは平和の象徴とも言えます。
不安定な時代だからこそ、お互いの無病息災を願う年賀状の習慣を守り育んでいく価値があります。紋切り型の挨拶にこだわらず、相手の気持ちを慮って、前向きな気持ちになれるような年始の挨拶を送ってみてはいかがでしょうか。
被災地へ年賀状を出す際は、相手の気持ちを傷つけないように細心の注意を払う必要があります。新年を祝う気持ちになれない人も多いかもしれないので「おめでとう」というニュアンスの言葉は避けたほうが無難です。新年を祝う言葉の代わりに、先方の安否を気遣い、健康と幸せを祈る内容にするといいでしょう。
できるだけ明るい希望が持てるような文面がおすすめです。反対に「がんばって」などの励ましの言葉は、相手の負担となる場合があるので使わないようにしましょう。
被災地に対して、おめでたい言葉が並ぶ年賀状を送るのは気がひける…という場合は、「年始状」を送ってみてはいかがでしょうか。年始状とは、東日本大震災をきっかけに生まれたもので、賀詞を使わない文面で作成された年始の挨拶状です。用途としては、被災された方に出すほかに、喪中はがきや寒中見舞いの代用としても使えます。
賀詞とは、年賀状に限らず使用される、お祝いの言葉です。現在では特に「年賀状に用いる新年のお祝いの言葉」を指すようになりました。「寿」「迎春」「謹賀新年」「あけましておめでとうございます」などがそれにあたります。
年始状を書く際は、お祝いの言葉を書く代わりに、新年の挨拶文を入れます。
新年の挨拶文のあとに、お世話になったことに対する感謝の言葉や、近況報告を加えるとよいでしょう。最後に「本年もよろしくお願いいたします」といった文章で締めくくります。
被災地に対して年賀状を出していいものか、出すのならどのような文面がいいか、悩む方も多いかもしれません。そこでおすすめなのが、お祝いの言葉を使わない年始状です。テンプレートBANKでは、賀詞を使わない控えめなデザインの年始状が作れるテンプレートをご用意しています。
誰しも自分のことを気にかけてくれる人がいるのは嬉しいものです。こんなときだからこそ、年始状に手書きの文字を一言添えて、相手へのいたわりの気持ちを伝えましょう。
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