前回の記事では、タツノオトシゴの種類を紹介しました。 その記事を読まれて「タツノオトシゴって個人では飼えないの?」と思われた方も多いかと思います。 タツノオトシゴは個人で飼育可能な種も多く存在し、海水魚を扱うアクアリウムショップでは色々な種のタツノオトシゴが販売されています。
今回の記事では、タツノオトシゴの飼い方を紹介します。
タツノオトシゴは海水での飼育が必須となります。 現在、淡水で飼育できるタツノオトシゴは存在しません。 海水魚は淡水魚に比べるとかなり敷居が高いイメージがありますが、実際には淡水魚の飼い方とそこまで大きく違いません。
ただし、淡水魚と違いある程度の「マメさ」が必要になります。
最低30リットル以上入る水槽を目安に選びましょう。 水温の変化が激しいと、生体が弱りやすくなり、病気になりやすくなってしまいます。 また、水槽が小さいと水が蒸発することにより、比重(水槽中の水と塩の割合)が変わってしまいやすいです。 水温や比重を安定させるために、少なくとも30リットルは欲しいところです。 100リットル以上あると安心です。
水道水でOKですが、カルキ(塩素)を除去する必要があります。 カルキは海には存在しておらず、多くの水生生物にとって有害な物質です。 水をバケツに入れて半日ほど外に放置してもカルキを抜くことができますが、カルキ抜きを買ってきて使えばすぐにカルキを抜くことが可能です。
食塩でOKです。海水魚を飼育する場合、塩はそれなりに大量に必要になります。 水替えを行う時に必ず必要となるため、多めに用意してそれなりの量を常備しておくと安心です。
ライブロックとは「海から取ってきた石」のことです。 海から採取した石には多数の微生物が付着しており、この微生物を増やすことで「水を回す」必要があります。 色や形や大きさは様々なため、自分の好きなものを選ぶのも楽しいです。
タツノオトシゴは海藻や珊瑚などに尾を巻き付けて休憩するという習性があります。 そのため、尾を巻き付けることができる海藻や人工の水草、死んだ珊瑚などを用意し水槽内へ設置しましょう。 ライブロックと上手く組み合わせて、綺麗に見えるレイアウトを考えると楽しいです。
塩と水が適切な比率になっているかを測定することができる機器です。 これがあれば水槽の水が適切な比重になっているかをすぐに知ることができます。海水魚飼育の際は必ず1つは用意しましょう。
最もよく使われる比重計はTetra社の「ハイドロメーター」という商品で、手軽な価格で購入することができ、壊れにくく長持ちします。手を濡らさずに測定できるのも魅力です。
試験紙はなくても大丈夫ですが、できればアンモニア、亜硝酸、硝酸それぞれの試験紙があると安心です。 タツノオトシゴも生き物ですから排泄を行いますが、排泄物にはアンモニアが含まれています。 バクテリアによりアンモニアは亜硝酸に、亜硝酸は硝酸に分解されます。 毒性の強さはアンモニア>亜硝酸>硝酸となっています。 アンモニアは生体にとっては猛毒で、濃度が高くなると生きられずに死んでしまうことになります。 そのため、水槽に生体を入れたら暫くは毎日、慣れてきたら1週間に1回程度、試験紙を用いて各濃度を測定するようにすると安心です。 生体が弱ってきたと感じた時も試験紙を用いることで、水替えの目安のひとつにすることができます。
飼育し始めの頃は、毎日試験紙を用いて水質の測定をすることをお勧めします。 どのくらいのペースで水質が悪化していくのか、どのくらいのペースで換水すればいいのかを掴むことができるためです。
まずは生体を入れる前に、水槽内に十分バクテリアが繁殖した状態を作ります(これを「水を回す」と言います)。 ここが海水魚と淡水魚の飼育の大きな違いで、淡水魚は水合わせさえ行えばその日に水槽に放り込んで大丈夫ですが、海水魚はまず水を回してバクテリアをあらかじめ繁殖させておく必要があります。 水を回さない状態で生体を入れてしまうと定着できずに死んでしまったバクテリアの死骸のせいで水質が悪くなり、生体が弱ってしまい、死んでしまうこともあります。 水合わせをしたからと言ってすぐに生体を水槽に入れないようにしましょう。
生体を選ぶ際に絶対に重要視すべきことは餌食いが良いか否かです。 餌食いの良し悪しで、飼育難易度は大幅に左右されます。 また、活餌しか食べないのか冷凍餌も食べるのかで大幅に難易度が変わってきます。 必ず店員さんに冷凍餌を食べるか否かを確認するようにしましょう。
人間は出された食べ物が気に入らなくて手を付けずに餓死してしまうということはあまりなく、嫌でも食べて生き延びようとするケースが多いです。 しかし、魚の飼育では「餌が気に入らないから食べなくて死んでしまう」というようなことは頻繁に起こります。 活餌しか食べない場合は別の水槽を用意して活餌を繁殖・維持する必要が出てきます(活餌はブラインシュリンプ、イサザアミなどがよく利用されています)。
WC(wild caught/野生個体)よりもCB(captive breeding/人工繁殖個体)の方が餌食いがよく、また冷凍餌にも餌付いているケースが多いです。 店員さんに
上記2点をよく確認しましょう。 「分からない」という答えが返ってきたら、知識がない人が店員をしているか、または担当者が不在です。 担当の店員の出勤日を聞いて再度出直すか、購入するお店を変えましょう。
2週間程度かけて水を回すことができたら、初めてここで生体を買いに行きます。 店員さんにも準備がきちんと整っているという旨を伝えてタツノオトシゴを購入しましょう。 タツノオトシゴは1匹5,000円〜10,000円程度で販売されていることが多いです(種類や状態によって異なります)。 生体を家に持ち帰ったらいきなり水槽の中に入れるのではなく、生体が入っている袋ごと水の中に入れて暫く放置し、水槽の中の水と袋の中の水の温度を同じにします(これを「水合わせ」と言います)。
▲水合わせの様子(写真の生体はプラティ)
いきなり水温が違うところに放り込まれると生体が弱ってしまい、死んでしまうケースもあります。 人間も季節の変わり目には風邪を引きやすかったり、昼と夜の寒暖差が激しいと疲れやすかったり、真夏の室外とエアコン効いた室内を行き来して温度差で夏バテしたりしますが、魚も同じです。 人間よりも体の小さい魚では、水温の急激な変化による負担は人間の想像よりもずっと大きなものになります。 生体にかかる負担を極力減らすために、必ず1〜2時間程度は水合わせを行いましょう。 どちらかというと、淡水魚よりも海水魚の方が水質の変化に弱い傾向にあります。 水合わせを行った後はゆっくりと生体を水槽の中へ放ちます。 この際、生体が弱っていないか、元気よく泳ぎまわっているか等、よく観察しましょう。
タツノオトシゴのお世話は主に「給餌する」「換水する」です。
冷凍の餌に餌付いている個体であれば、冷凍ブラインシュリンプまたは冷凍ホワイトシュリンプを解凍して与えます。 細長い口(吻部)からスーッと吸い込むように捕食します。 冷凍餌は1回でたくさん与えると食べ残し発生してしまい、水質悪化につながります。 そのため、タツノオトシゴの様子を見つつ、少しずつ与えていきましょう。
冷凍の餌に餌付いていない個体の場合はイサザアミを購入して与えるかブラインシュリンプの卵を購入して孵化させて与えます。 ブラインシュリンプは卵を海水に入れて放置しておくだけでも孵化させることができますが、ハッチャー(孵化器)を使用すると手間は少しかかりますが孵化効率が各段に上がります。 イサザアミを与えたい場合は、イサザアミをストックする水槽を用意して、購入したイサザアミを活きたまま飼育できるようにします。
タツノオトシゴは変温動物なので基礎代謝は低いですが、胃が小さいため1日に1〜2回程度の頻度での給餌が必要となります。 給餌の頻度が低いと飼育下でも餓死してしまいます。痩せすぎていないかを見極めて、適切な頻度で給餌を行いましょう。 元々皮膚がゴツゴツとしている生き物なので「痩せすぎて骨ばっている」状態が少し分かりにくいですが、それ以外にも元気があるか、動きが弱々しくないか、等しっかりと観察を行いましょう。生物飼育の基本は「観察」です。
水を回した際にヨコエビが繁殖した場合、タツノオトシゴの良質な餌となりますので駆除する必要はありません。 水槽に多めに海藻類を入れておきヨコエビが繁殖しやすい環境にすると、タツノオトシゴがヨコエビを勝手に食べてくれて餓死のリスクを下げることができるのでお勧めです。
タツノオトシゴは冷凍の餌に餌付いているか活餌しか食べないのかで飼育の手間・難易度が大幅に変わってきます。 店員さんにしっかりと確認することが大切です。
水槽内に汚れが溜まってきたら、水槽の水替えを行います。 ポンプを利用して水槽内の水を抜き、新しく用意した水に入れ替えます。 この際、必ず水合わせ(水の温度を同じにする)と比重合わせ(比重を同じにする)を行ってください。 急激な温度変化または比重変化が起こると、生体はかなりのダメージを受けてしまいます。 温度計や比重計を利用し、しっかりと水槽内の水と同じ水を作成してください。
蓋がない水槽の場合は水の蒸発にも注意する必要があります。水が蒸発した際に、塩も一緒に蒸発することはありません。 そのため、水槽内の水が蒸発しても放置しておくとどんどん塩分濃度が上がっていってしまいます。 水槽内の水が蒸発した場合は、カルキを抜いて水合わせを行った水をそっと足すようにします。 この際、比重計で水と塩の比率が正しい比率になっていることを確認しながら行ってください。
タツノオトシゴは泳ぎが上手ではなく動きもゆっくりなため、他の魚からちょっかいをかけられやすい傾向にあります。 人間を含む何の生物でもそうですが、ストレスが多くかかるほど寿命が短くなります。 他の魚との混泳は避けましょう。
タツノオトシゴのみであれば、複数個体を1つの水槽で飼育可能です。 餌の偏りや水質悪化などに十分注意して飼育しましょう。
飼育下で3〜5年です。長生きさせたい場合は
・ひみつのレプタイルズ 5巻
・タツノオトシゴの飼い方!設備やエサ、混泳、種類など!|アクアハーミット
・海水水槽で湧くヨコエビについて。水槽への被害、メリットや増やし方!|アクアハーミット
・タツノオトシゴの飼育方法|値段や寿命、設備、大きさは?|WORIVER
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